祇園坊柿の収穫

のどかな農村で育まれる「祇園坊柿」を求めて

2012年10月の穏やかな秋の日、平安堂梅坪「柿羊羹 祇園坊」の大切な原材料である「祇園坊柿」の産地「祇園坊の里」を訪問しました。

「祇園坊の里」がある安芸太田町は、広島県の北西部に位置し、「美しい日本のむら景観百選(農林水産省選定)」にも選ばれるほど、美しい農村の景観が広がるのどかな土地です。

gionbou_1

平安堂梅坪はこの「祇園坊の里」に柿の木を所有しています。

ここで育てられている「祇園坊柿」は広島原産の渋柿の一種で、格段に実が大きく、果肉と水分が豊富で種がありません。甘すぎないさっぱりとした味で、メロンに勝るとも劣らない味から「柿の王様」ともいわれています。

この日は、丹精込めて柿を育てておられる河本さんにお話をうかがいました。

もともとこの辺りでは、柿の木があちこちにあり、手間をかけず放ったらかされていたそうです。昭和50年代から安芸太田町が中心となって「祇園坊柿の里づくり」を進め、柿農園として管理するようになったとのこと。

河本さんはその当初から柿農園を営んでいらっしゃいます。河本さんの「祇園坊柿」の木は、今年で樹齢約20年(20~25年が最も品質がよいといわれています)。

「育てるのは難しいけれど、日本一美味しい柿と自負しとります。干し柿にした時の品質は最高です」と素敵な笑顔でお話が始まりました。

おいしい柿のために、大切なのは「地力」!

柿は、毎年4月の終わり頃から新芽が伸び始め(1年で30~50cmも伸びる!)、白い花を咲かせて、5月頃から実をつけ始め、10月頃にふっくらとなった実の収穫が始まります。

河本さんによると、柿を育てるポイントは根にあるとか。根をしっかりはった元気な木は、11月半ばまで葉が落ちずに残るそうです。木の真下に伸びる直根がしっかりしていると、水分や栄養をよく吸収するので乾燥しにくいからとのこと。また、地表近くに広がって伸びる根が干渉しないよう、木と木の間隔にも気をつかいます(人が傘をさして通れるくらいがちょうど良いそうです)。

gionbou_3

「乾燥すると、葉がつかず、枝も伸びず、実ができにくくなります。祇園坊柿を育てるには、土壌づくりが大切なんですよ。根がよく張るよう肥料をあげて、水の量や寒暖の差も大事。とにかく地力が大切なんです。」と河本さん。

「木が病気になってしまったときは、葉の表情ですぐにわかります」とは、さすが育ての親!

柿の木は、剪定や収穫で枝を切った部分にコブができ、そこから新芽が出て葉や実をつけます。剪定は新芽をつけるため、また実の重みで枝が折れたり、木が高くなりすぎたりしないためにも必要ですが、剪定しすぎると、葉が少なくなり光合成による栄養分が減ってしまうので、微妙な加減が必要となります。

さらに、収穫では枝ごと切るため、翌年実をつける“なり枝”が少なくなり、1年ごとに豊作と不作を繰り返します。このバランスの加減が、「祇園坊柿」は育てるのが難しいといわれる由縁でもあります。

今年は豊作の年で、柿の実がたわわになっていました。「柿羊羹 祇園坊」に使う干し柿に丁度よい、少し小粒の実が多く穫れそうとのことでした。

収穫の最盛期は大忙し

祇園坊柿の外見の特徴としては、実の外側に四条の溝があります。溝が浅すぎず深すぎず、きれいに4つの房状に分かれ、先が少し尖り、ふっくらして四角いものが、形の良い実とされています。

今回は、木になったまま熟して自然に渋が抜けた、熟柿(じゅくし)を試食させていただきました。そのままかぶりつくと、果汁があふれ出して滴り、とろりとした果肉の甘さが口いっぱいに広がります。思わず「おいしい!!」と声が出てしまいました。柿ってこんなに甘くておいしかったかしら?! と思うほど、自然の甘味に感動しました。

熟しすぎる前に収穫した実も痛みやすいため、すぐに渋抜きをして食べるか、干す必要があります。
渋抜きをした「あおし柿(あわせ柿)」は生食ができます。渋抜きはドライアイスと一緒に袋に入れるか、または焼酎を霧吹きして1週間、温度調整をするのが一般的です。

柿羊羹「祇園坊」のため、干し柿へ

今回は、平安堂梅坪の「柿羊羹 祇園坊」の原料となる干し柿の作業現場も見せていただきました。

まず、収穫した実を「干し柿」用と「あおし柿」用に選別します。干し柿に向くもの、あおし柿に向くもの(サイズが大きいと乾燥しにくいため、あおし柿にします)を、ひとつひとつ重さをはかって選り分けています。

選別された実は、ひとつひとつ手作業で皮をむきます。熟練の方々の、目にも留まらぬ速い動きに驚かされました!
柿の水分や糖分ですべらないよう、滑り止めがついた手袋をはめ、溝の部分までしっかり皮がむけるようにお手製の道具を使うなどの工夫も見られました。
皮をむいた柿を吊るす作業も、見事なスピードで、カメラのシャッターが追いつきませんでした。

gionbou_8

柿を吊るすハウスの中には、しっかりと温度管理された乾燥機があります。ここで2、3日かけて実を中までしっかり乾燥させます。「実の表面ばかりを乾燥させると固くなってしまうため、熟練の目と手触りで確認しながら、ほどよいタイミングで天日干しに移して、じっくりやわらかく乾燥させていきます」と河本さん。
乾燥が足りないとカビが発生したり、色が悪くなることもあります。その見極めや気候に合わせた温度・湿度調整などが難しく、完成まで細やかな手間がかけられます。

渋柿だった祇園坊柿は、干すことでタンニン(渋の成分)が不溶性になり、甘味がいっそう強くなります。
表面に白い粉がふくころには、干し柿ができあがります。この白い粉は糖分の結晶。干し柿の糖度は、じつに60度以上にのぼります。砂糖が一般の人々の手には入らなかった時代から、干し柿は貴重な甘味源であり、菓子のルーツでもありました。

柿の意外な力とは?

取材を終えて、ごあいさつをしている中、耳に飛び込んできた言葉は……

「柿は二日酔いにも効くけん」

祇園坊柿の里のホームページにも「柿の栄養」と題して、以下のように記されています。

(引用)柿のビタミンCは豊富なタンニン(渋味の原因)と結びついて、血中アルコール分を外に排出してくれるので、二日酔いに効果があるそうです。またお酒を飲む前に柿を食べれば、悪酔い防止にも!
ビタミンK、B1、B2、カロチン、ミネラルも豊富です。カロチンは体内でビタミンAに変化し、粘膜を強くして風邪を予防してくれます。干し柿にするとカロチンは3倍になります。

お酒をよく飲まれる方は、柿の栄養を生活に取り入れてはいかがでしょうか?

さいごに

gionbou_9

干し柿が完成するまで、約2ヶ月。
安芸太田町で河本さんの愛情をいっぱい受けて育った祇園柿が、どのようにおいしい「柿羊羹 祇園坊」に変身するのか、今後も追っていきます。


柿羊羹 祇園坊